失っても、それでも人は生きていく――ロスジェネ世代を映した“肯定”の物語【榎田ユウリさんインタビュー】
春、3月。物語は綿々としたモノローグから始まっていく。「はじめの50ページを何度書き直したことか」と、榎田さんは苦笑する。23年ぶりに中学時代を過ごした町へ、ひとりきりで戻ってきた主人公は、懐かしい場所を歩きながら想いを巡らせる。誰に聞かせるわけでもない心の声。その饒舌さは、どこか哀しくなってきてしまうほどだ。
榎田ユウリ えだ・ゆうり●東京都生まれ。主な著書に「妖琦庵夜話」シリーズ、『夏の塩』をはじめとする「魚住くん」シリーズ、「カブキブ!」シリーズ、『ここで死神から残念なお知らせです。』『死神もたまには間違えるものです。』など。榎田尤利名義でも活動。ボーイズラブ作品を多数発表、著作数は2018年で120作を超える。ジャンルを超えた人気を博している。 「主人公の矢口弼(たすく)は、作者である私にも、なかなか打ち解けてくれなくて。“初対面”ってやっぱり難しい。特に矢口はめんどくさいやつなので(笑)。シリーズものの執筆が続いていたので、はじめからキャラクターを作るのは本当に久しぶりでした」 ボーイズラブ(BL)のジャンルでは、榎田…