お茶目で可愛い年下の恋人…生まれて初めて異性を「好きだ」と感じ/ 大石圭『溺れる女』⑧
――彼と出逢ってしまったのが、 悲劇のはじまり。 『アンダー・ユア・ベッド』『呪怨』『甘い鞭』の大石圭、最新作。 著者渾身の「イヤミス」ならぬ「イヤラブ」小説。
『溺れる女』(大石圭/KADOKAWA)
わたしが江口慎之介との交際に同意した数日後に、わたしたちは渋谷の洒落たカフェで待ち合わせた。
大学に通う時のわたしはいつも、トレーナーにジーパンというような飾り気のない格好をしていた。それでも、あの日は精一杯のお洒落のつもりで、踝までの丈のふわりとしたワンピースを身につけた。足元もいつものスニーカーではなく、踵の低いサンダルにした。
化粧をしてみることも考えなくはなかった。けれど、結局、化粧はせずに出かけた。あの頃のわたしは、ファンデーションやアイシャドウどころか、リップルージュさえ持っていなかった。
いっぽう、彼のほうは男性ファッション誌から抜け出てきたような格好をしていた。あの日も彼の耳にはピアスが嵌められていたし、女のようにほっそりとした指ではいくつかの派手な指輪が、襟元では華奢な革ひものネックレスが揺れていた。
江口慎之介は長くて細い首…