悦楽的でポップな描写が大変おもしろい純コミック
ひさうちみちおの絵柄はポップだ。軽くて、まるで人物が浮いているように見える。ポップというのは時間の流れに弱く、古いとか時代に合わないとか、すぐダサイものに変わってしまう。けれどひさうちのマンガはつねにポップにあり続ける。時代の波の上を落ちることなくつねに滑走してみせるサーファーのようだ。
『夢の贈物』には10の短編が収められている。
それを通読してみると、彼にはとくに書きたいことなんかないようにさえ思える。何について書いたのかあんまりよく分からない。なにかについて書いたのでなく、単に「絵」が書きたいだけみたいな気がするのである。そうしてその「絵」は大変苦労して書いているに違いない。線の一本一本がこれ以上ないくらい精密なストリームをなぞってコマを成立させている。漱石の『夢十夜』の中で運慶が仏像は彫っているのではない、木に埋まっているのを取り出すだけだといっていたが、ひさうちのコミックもそんな感じだ。
気品があると、ひさうちのマンガについては、そうもいえる。いじめられっ子の山本くんがニキビがほしいと考え、頬にプチプチを貼って水を注入、女子生徒の前でつぶして…