『Masato』発刊記念 岩城けいインタビュー 少年の目を通して描かれる海外での暮らしと家族
2013年に上梓された岩城けいのデビュー作『さようなら、オレンジ』は、異例づくしの作品だった。 異郷の地で辛い境遇に耐えながらも、英語という第二言語を獲得することで新たな自分を開拓していく女性たちの凛とした生き様を描いた本作は、選考委員全員のすみやかな意見の一致を得て第29回太宰治賞を受賞。三浦しをんの選評などで「全員一致」が椿事であると明かされたこともあり、作品発表前から多くの読書家の興味を惹いた。
『Masato』 岩城けい 集英社 1200円(税別)
その結果、初お披露目となったムック本は販売数を伸ばして重版されるに至り、数カ月後に発売された単行本も順調に版を重ね、無名の新人作家の、しかもいわゆる純文学と呼ばれる分野の本としては近年稀な売れ行きを見せたのだ。 彗星のごとく現れた新たな才能に、文学界も注目した。デビュー作にして、三島由紀夫賞や芥川賞といった主要な文学賞にノミネート。さらには大江健三郎賞に選ばれ、ノーベル賞作家である大江から「これから仕事を始める新しい(若い)作家に自分の中篇小説を試みさせる規範ともなる」との激賞を引…