会社がなくなり、2億円が消えた──二転三転する迫真サスペンス『清算』著者・伊岡瞬インタビュー
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年1月号からの転載です。
「最初に断っておきたいのですが、登場人物はすべて架空のキャラクターです。実際はとても家族的で温かい職場でした」 開口一番、伊岡さんがそう述べたのには理由がある。『清算』は、伊岡さんの実体験から着想を得たサスペンス。かつて勤めていた広告会社が解散・清算されることになり、その実務に携わった経験が生かされている。
取材・文=野本由起 写真=干川 修
「私は以前ある広告会社に勤務していました。入社後数年して例のバブル景気が到来し、今では考えられませんが、企業には広告費に糸目をつけないというような風潮さえありました。私の在籍した会社も恩恵を浴しました。しかし、夢の時間は長く続かず、やがてバブルが弾け、リーマンショックが追い打ちをかけ、長く続く不況の時代になります。赤字基調から抜け出す見込みが立たなくなったため、傷が浅いうちにと解散することになったのです」
倒産を扱った小説はあっても、解散・清算を描いた作品は珍しい。そもそも両者には、どのような違いがあるのだろうか。 「乱暴に言ってしまうと、…