誰にも見せない、“仮面”の内側……人間心理に斬り込むクライムサスペンス《伊岡瞬インタビュー》

人は誰しも、仮面をつけて生きている。他人には見せない素顔、心の奥の触れられたくない領域。伊岡瞬さんの新作は、そんな仮面の内側に迫るクライムサスペンスだ。
(取材・文=野本由起 撮影=干川 修)
「凶悪事件の裁判が結審すると、情報番組のコメンテーターが『心の闇は明かされないまま終わりました』などと言いますね。でも、心の闇なんて誰が覗けるでしょうか。たとえ家族といえども、心の内側までは絶対に覗けない。それを仮面というのであれば、人はみな仮面を被っていることになります。前作『本性』からつながるテーマではありますが、別の角度から人間の仮面について描いてみようと思いました」 登場人物の中でも、もっとも謎に満ちた存在が三条公彦だ。彼は、読字障害というハンディキャップを抱えながらも、アメリカの名門大学に留学した経歴を持つ作家・評論家。帰国後に出版した自叙伝がベストセラーとなり、現在テレビ番組のコメンテーターとして人気を集めている。 「読字障害は、文字を認識するのが苦手という特徴を持ちます。“障害”という名称がついていますが、例えば歌が下手な人を障害とは呼ばな…