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あくてえ

あくてえ

あくてえ

作家
山下紘加
出版社
河出書房新社
発売日
2022-07-15
ISBN
9784309030630
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「あくてえ」のおすすめレビュー

ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、山下紘加『あくてえ』

『あくてえ』

●あらすじ● 「『あくてえ』は、悪口や悪態といった意味を指す甲州弁」。19歳のゆめは、あらゆることに苛立ち続けている。憎まれ口ばかり叩く祖母、優しさのあまり誰にも何も言えない母、外に子供を作って出ていった祖母の実子である父親、軽薄さの滲み出る彼氏、そして、日々を必死にこなすうちに遠ざかっていってしまう小説家という夢……。思うようにならないヘヴィな日常への叫びが、ゆめの一人称で語られる。

やました・ひろか●1994年、東京都生まれ。2015年『ドール』で第52回文藝賞を受賞しデビュー。著書に『クロス』『エラー』などがある。本作『あくてえ』は第167回芥川賞候補作となった。

山下紘加河出書房新社 1650円(税込) 写真=首藤幹夫

編集部寸評  

作家志望者からこぼれ落ちる悪態 ゆめとその母のきいちゃん、そして「ばばあ」の三世代が同居する家。そこで交わされる悪態に、きいちゃんは関与しない。ゆめの悪態は「ばばあ」にのみ向けられ、出ていった父親や彼氏に対するそれも、似て非なるものだ。彼らはゆめにとって、逃れがたい生活の外側にある。そう…

2022/9/12

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芥川賞候補作! “偏屈なばばあ”の介護に汲々とする親子の苦悩を描く『あくてえ』。その家族に幸せな結末は待っているのか?

『あくてえ』(山下紘加/河出書房新社)

 山下紘加氏が2021年に上梓した『エラー』は、実に野心的で衝撃的な小説だった。テレビの大食い番組に出場するフードファイターたちの生き様を描いた同作は、山下氏の作家としてのポテンシャルの高さを見せつけてくれた。そして、『文藝』2022年夏季号に掲載された山下氏の新作『あくてえ』河出書房新社)は、第167回芥川賞の最終候補にあがっている。選考会は7月20日だ。

『あくてえ』は、ざっくり言うと高齢者の介護の話である。小説家志望の主人公「ゆめ」は、母親の「きいちゃん」と共に、90歳の祖母の世話に汲々とする日々。ゆめの父親は浮気が原因で既にきいちゃんと離婚しており、自分の母親の世話を元妻に押し付けている。なお、タイトルの『あくてえ』は、悪口や悪態といった意味を指す甲州弁だそう。ゆめは、祖母の下品で野暮ったい言葉遣いを聴いて育ったので、その記憶が深層にこびりついているのだろう。ゆめは苦手な祖母を心の裡で「ばばあ」と呼ぶ。

 様々な病気を抱え、認知症の兆候もあるばばあに、ゆめときいちゃんは時に冷静に、時に熱心にケアをする。だ…

2022/7/19

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あくてえ / 感想・レビュー

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starbro

第167回芥川龍之介賞受賞作・候補作、第四弾(4/5)です。山下 紘加、初読です。祖母、母、娘、女三世代の群像劇、半分私小説のような感じでした。正に悪態をつきたくなるような作品、揉め事を家の外に持ち出してはイケマセン(笑) https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309030630/

2022/08/19

モルク

小説家志望の20才になろうとする主人公ゆめ。90才のばばあと母親きいちゃんと暮らしている。父はゆめが高校生の時女をつくって出ていった。その後もきいちゃんは義母であるばばあと同居し我儘をきき、健康に苦慮し献身的に面倒を見ている。ゆめはそれがもどかしくばばあに悪態をつく。何も言わないきいちゃんに対しポンポン言うゆめが気持ちいい。悪態をつく中にも何かばばあへの愛情を感じる。それに対し親父はくそ野郎。ヤングケアラーであるゆめの本音がよくわかる。

2023/04/02

いっち

「あくてえ」とは、甲州弁で「悪口」や「悪態」のこと。19歳の主人公は、悪態をつきまくる。同居の祖母を心の中で「ばばあ」と呼ぶ。主人公は、祖母と母との三人暮らし。祖母は母にとっての義母。父は浮気し家を出て、新しい家族と暮らしている。主人公は父にも悪態をつく。母は90歳の義母の世話をしているが、元夫に任せてもいいものを、弱音を吐かずに受け入れる。代わりに主人公が悪態をつく。主人公にとっての悪態は、コミュニケーションの手段。心の底から相手を憎んでいるわけではない。悪態をつかずにはいられないから吐き出すしかない。

2022/07/16

ちゃちゃ

「ばばあ」という侮蔑を込めた呼び方で悪態をつく。19歳のゆめは祖母への嫌悪や憎悪から、“あくてえ”(悪態)をぶつけずにはいられない。けれどそこには、感情を言葉としてうまく表出できない不甲斐なさや苛立ちが混じっている。彼女は小説家志望でもあるのだ。老いた身で欲望のままに生きる祖母、離婚して生活費を入金できない身勝手な父親。感情が先走り言葉は形にならず無力感に包まれる。“あくてえ”の応酬は、そんな自己不全感を内包し何者でもない自分に突き刺さる。 終わりのない現実との苦闘を、熱く迸るような感性で描いた意欲作だ。

2022/10/07

buchipanda3

ばばあ、な話。題名は甲州弁で悪態のこと。片や"ばばあ"は全国で通じる悪態の言葉で、20歳のゆめが同居して世話する90歳の祖母に向けて心で毎度つぶやく言葉。キツめな言葉だが、でもそれは彼女を支えているように思えた。彼女は祖母の姿をつぶさに見つめる。減らず口ばかり、でも転ぶだけで骨折する、背中も小さい。小憎たらしいけど放っておけない。父親のように目を背けない。祖母へ正面を向く、だからばばあ。対する祖母の甲州弁のあくてえも良い。現実は起承転結で結ばれない。日々続くからこそ受け身ばかりではないことが救いなのかも。

2022/07/16

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