トラディション
「トラディション」のおすすめレビュー
彼の顔はいつも女のつける化粧品の匂いがする…。ホストクラブを生き場所にする女たちの渇望を描いた小説
『トラディション』((講談社)
新宿や横浜でキャバクラに勤めたことのある作家の鈴木涼美氏は、エッセイでも小説でも論考でも、夜の繁華街に生きる女性たちの生態を余すところなく描いてきた。新刊小説『トラディション』(講談社)もまた、歓楽街のホストクラブを舞台にした中編だ。主人公は兄を頼ってホストクラブの受付で働くことになった女性の〈私〉で、途中から店の金勘定の担当に変わる。舞台は歌舞伎町……と自動的に思い込んでしまうが、明言はされていない。特定の地名を出すことで読者のイメージが狭まってしまう、と鈴木氏は考えたに違いない。
ホストに貢ぐ太い客ではなく、受付や金勘定をする女性を主人公に設定したのは、連夜の狂騒をフラットに観察する第三者的な視点が必要だったからだろう。女性客=〈姫〉たちのご乱心を〈私〉は他人事のように冷静に見つめている。華やかな世界の裏方として、やや醒めた視線でこの街の実状を照射する、そんな存在だ。
〈私〉の視点を通して、他の街では非常識でもこの街では常識である慣習の特異さが浮き彫りになる。例えばホストクラブでの売掛。数百万、数千万に及ぶことも…
2024/1/23
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トラディション / 感想・レビュー
いつでも母さん
120ページに満たないのに読了に時間を要した。詰まるところ私には掴めそうで絶対に掴めない世界観な感じ。兄の経営するホストクラブの受付の私と幼馴染の祥子、祥子の贔屓のホストと暮らす私、私とホストクラブに貢ぐ女、私と入院中の祖母・・静と動、静と静の絵が頭に浮かんでは霞む。それが作品世界に入って行けないじれったさでそのまま読了した感じ。私には合わなかったのだろう。
2024/01/23
花ママ
ギフテッド、グレイスレスに続いて鈴木さん3冊目。いずれも自分の日常とは全く異なった世界にいる人びとの物語。兄が経営するホストクラブの受付で働く主人公と、ホストに嵌まる幼なじみの祥子 自分の身を削って稼いだお金を、ホストに貢ぐという行為は、どうころんでもわからない。私さえ満足ならいいということか。それが生きがいになるのだろうか。今まで読んだ物語の中に、決まって主人公の「祖母」が登場するのは、鈴木さんの中に、おばあさんへの思い入れがあるのかなぁ。
2024/02/28
ぽてち
兄の経営するホストクラブで唯一の女性として働く私。仕事は彼女曰く「金勘定」だ。彼女の周りで起きる刹那的な出来事を硬質な文体で淡々と綴った作品。水商売や性風俗の世界には縁がないので書かれている内容は興味深く読んだが、面白かったとは言えないなあ。彼女の辿ってきた人生も断片的すぎて、なにかを感じるには手がかりが足りなかった。
2024/01/10
道楽モン
作者の小説3作目。140ページの短編ではあるが、今作も文体は重厚かつ硬質だ。兄の経営するホストクラブで会計を担当する主人公の視点から、虚構と欲望と承認欲求に満ちた世界を作品化している。幼馴染が転落してゆく様を目の当たりに、しかも彼女の贔屓ホストと暮らしているという設定。更に衰えつつある祖母、亡き母への反発という隠されたテーマが今回も足下に横たわっている。如何様にも派手に料理できる素材と設定ながら、あえて自分の文体を貫く姿勢は、純文学の様式のみならず、文学の可能性を信頼しているということなのだろう。
2023/12/14
dolce vita
何かとニュースになっているホストクラブと女の子たちのことを思いながら読了。なんだか複雑な気持ちになる。#NetGalleyJP
2023/12/20
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