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くもをさがす

くもをさがす

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作家
西加奈子
出版社
河出書房新社
発売日
2023-04-18
ISBN
9784309031019
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「くもをさがす」のおすすめレビュー

カナダで乳がんになったーー医療制度の違いを乗り越え治療に励んだ日々を綴る、西加奈子のノンフィクション作品

『くもをさがす』(西加奈子/河出書房新社)

 カナダで、がんになった――。直木賞作家・西加奈子氏の最新刊『くもをさがす』(河出書房新社)は、同国で乳がんとコロナに罹患した彼女によるノンフィクション作品だ。西氏いわく、心身が前に進むための手段として綴った手記だというが、これはいわゆる「闘病記」とは異なる類の本に思える。むしろ、自らの病状を定点観測した、観察記のような様相を呈しているからだ。

 西氏が病に苦しむ姿は、読んでいて、なんて痛そうで辛そうなんだ、と我が事のように胸が痛む。様々な薬を服用して苦しむ彼女の姿に、熱烈に感情移入せずにはいられなかった。まるで自分もその痛みを共有しているような感覚になったのだ。

 がんの治癒は一向に安定しない。一進一退の攻防である。ここが良くなったと思ったら別のところが悪くなるなど、治療は果てが見えない。救急車を呼ぶために這い上がる気力もなく、必要としている鎮痛剤がなかなか入手できない。更に、夫も子供も愛猫も病を患い、思うように身動きが取れなくなることもある。そんな西氏の実感のこもった文章はヘヴィでシリアスだ。

 だが、重…

2023/6/17

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乳房、卵巣、子宮を失ってもーーガンを宣告された西加奈子が”自分”と向き合ったノンフィクション

『くもをさがす』(西加奈子/河出書房新社)

「西加奈子」という作家の物語に、これまで幾度となく救われてきた。『さくら』にはじまり、『漁港の肉子ちゃん』、『iアイ』、『きりこについて』、『きいろいゾウ』、数え上げたらキリがない。一昨年に刊行された『夜が明ける』は、それこそ一晩中、夜が明けるまで読み耽った。そんな私の西加奈子愛を熟知している友人から、先日、本が届いた。明るい黄色の背景に、蜘蛛のイラストの装丁。西加奈子氏による初のノンフィクション作品『くもをさがす』(河出書房新社)である。

 著者は、カナダのバンクーバーで乳がんを患った。本書には、その当時の状況や心境が克明に綴られている。

“これはあくまで治療だ。闘いではない。たまたま生まれて、生きようとしているがんが、私の右胸にある。それが事実で、それだけだ。”

 がんが生きるか、患者が生きるか。その拮抗を“闘い”と表現する人は多い。だが、事実だけを見据えて治癒に臨む著者の姿は、あまりにもまっすぐで、読む側の心を圧倒する。

 がんと宣告されてすぐ、著者は髪を剃った。ずっと坊主頭に憧れていたはずなのに、バリカ…

2023/6/2

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人気連載が1年間限定で復活!令和版・解体全書 第1回:西 加奈子

 過去本誌で連載をしていた「解体全書」が、創刊30年に際し1年間限定で復活。第一線で活躍する作家の方々がどのように〝作家〞となっていったのか、これまでの人生や、触れてきた作品、書くことと生きることのかかわりあいなどについてひもといていく。記念すべき第1回は、4月18日に自身初のノンフィクション小説を上梓した西 加奈子さんにお話をうかがった。

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年6月号からの転載になります。

取材・文:吉田大助

どれだけ読んだ本に自分が助けられたかという話でもあるんです

 2004年に『あおい』でデビューし、15年に『サラバ!』で直木賞を受賞した西加奈子がこの春、初のノンフィクション『くもをさがす』を発表した。題材は、自身が患うことになった乳がんだ。小説ではないんだ、きっと闘病記なんだ——本の中では〝闘病〞という言葉への違和感が表明されている——という印象で、読むことを躊躇してしまう人がいるなら誤解を解いておきたい。本作は、21年刊の長編小説『夜が明ける』以来となる、西加奈子文学の〝最新作〞だ。

『くもをさがす』1540円(税込)

 西…

2023/5/1

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くもをさがす / 感想・レビュー

powerd by 読書メーター

starbro

西 加奈子は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。著者初のノンフィクションは、異国(カナダ バンクーバー)の地、コロナ禍の乳癌闘病記でした。私もガンサバイバーなので、思いっ切り共感出来ました。著者には、これからも何とか新作を発表いただきたいと思います。しかし「くも」が蜘蛛🕷だとは・・・ 今年のBEST20候補です。 https://www.kawade.co.jp/kumosaga/

2023/05/27

Sato19601027

力強いエッセイである。異国のカナダで乳癌と宣告され、手術を経て治癒するまでの心の動きが丁寧に描かれている。「異国での癌治療」という重いテーマであるにも拘わらず、軽快なテンポで読めるのは、引用された文章の数々に唸らされ、関西弁の話し言葉に笑わせてもらったからだろう。「日本人には情があり、カナダ人には愛がある」という観察眼や、LGBTQIA+の人々への配慮に感動。癌を発見できた切欠となった蜘蛛は、本当におばあちゃんだったのかもしれない。(書店員が選ぶノンフィクション大賞オールタイムベスト2023大賞受賞作品)

2023/11/27

bunmei

直木賞作家・西加奈子が、カナダ移住後に発症した乳癌との闘病生活を綴った一冊。言葉もままならなく、医療体制も日本とは違うカナダでの癌治療は、不安と苦しみの連続であっただろう。しかし、文面からは、人は決して一人では生きていけない事、人を頼る事で繋がり合う素晴らしさが、溢れている。異国の地で死を間近に感じたことで、改めて自分の弱さを認識し、それを露呈する事で、生きる力への執着とポジディブさへと変換した事が覗える。また、カナダの看護婦や医師の言葉を、能天気な大阪弁で表現しているのは、西さんらしい描写である。

2023/06/09

うっちー

経験者でしかわからない境地かもしれません。還暦すぎると、いつ来てもおかしくないと思いました

2023/05/28

原です。

★★★★★カナダに居住していることも知らず、乳がんになっていたことも知らず、コロナ禍の中で闘病生活をしていたことも知らず、そこから復活していることも知らず。闘病中から日記や文章を書きながら、カナダでの闘病生活をここまで興味深くかつユーモア溢れて表現したエッセイは他にあるのだろうか。死ぬために生きるとはいえ、本当に西加奈子さんが生きていて良かったです。感謝です。

2023/04/30

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