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消滅世界 (河出文庫 む 4-1)

消滅世界 (河出文庫 む 4-1)

消滅世界 (河出文庫 む 4-1)

作家
村田沙耶香
出版社
河出書房新社
発売日
2018-07-05
ISBN
9784309416212
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「消滅世界 (河出文庫 む 4-1)」のおすすめレビュー

セックスがなく、男性も妊娠できる世界―「家族」という概念は消滅してしまうのか

『消滅世界(河出文庫)』(村田沙耶香/河出書房新社)

 女性は子どもを産んで当たり前、大人は子育てをして一人前という時代は終わりを告げつつある。しかし、「LGBTは生産性がない」という杉田水脈衆議院議員の発言、東京医科大学の女性差別入試問題、2014年に新語・流行語TOP10に入って以来ニュースが絶えないマタハラなど、依然としてジェンダー認識の相克は絶えない。この度文庫化された『消滅世界(河出文庫)』(村田沙耶香/河出書房新社)は近未来的設定ながらもある程度現実味を残したストーリーで、読者一人ひとりの「常識」を揺さぶる。

 物語の舞台は、人工授精で子どもを産むことが当たり前になった世界。夫婦間の性行為は「近親相姦」としてタブーとなっている。夫に「近親相姦」されそうになり離婚した坂口雨音は、両親の性行為によって生まれた自分の体が呪いにかかっているように感じていた…。

 本書を紹介すると際立つのは上記のようなある種SF的な設定だが、物語に漂う不思議な浮遊感は、現代社会と「変わらない点」からより多く生み出されているように思える。

「それだったら、友達と結婚し…

2018/9/12

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「見初められる、って なんておぞましい言葉だろう」――性的無理解。のみこんできた言葉を作品に託して ■対談 村田沙耶香×鳥飼茜

対談 村田沙耶香×鳥飼茜

結婚して子供を産むこと。それを強制されることへの違和。作風はちがえど、鳥飼茜さんと村田沙耶香さんの間にはとても似たテーマが漂っている。互いに作品のファンだったという二人の対談がこのたび実現。対話から見えてくる二人の「怒り」と「怖さ」とは?

(左)とりかい・あかね●1981年、大阪府生まれ。2004年デビュー。13年より連載を開始した『先生の白い嘘』は男女の性的無理解を描いた衝撃作として話題に。他の著書に『おんなのいえ』『地獄のガールフレンド』『漫画みたいな恋ください』『前略、前進の君』『ロマンス暴風域』など。

(右)むらた・さやか●1979年、千葉県生まれ。2003年、『授乳』で群像新人文学賞小説部門優秀作を受賞しデビュー。『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞受賞。芥川賞受賞作『コンビニ人間』は累計100万部突破。世界24カ国語で翻訳が決定されている。

  暴力には、興味と恐怖が半分ずつある(鳥飼)

鳥飼 村田さんの作品はもともと拝読していて、新作の『地球星人』ものめり…

2018/11/18

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少女と監禁犯の共同生活、指圧院で欲情…… 「家族と性愛」にまつわる文庫3選!

 家族の話や、性にまつわる話。語ることがタブーとされている話には、どうしてあんなにも興味をそそられるのだろう。しかも、“普通”でなければないほどに知りたくなる。歪んでいるほど、おもしろい。

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 ここでは「家族と性愛」にまつわる文庫本を3つご紹介する。夏も終盤、これから訪れる“読書の秋”に、ポケットサイズの歪んだ愛や、熱狂する官能をどうぞお楽しみください。

“家族”もセックスも消えた世界で『消滅世界』村田沙耶香

『消滅世界』(村田沙耶香/河出書房新社) もしもセックスのない世界になったら、わたしたちはどのように生殖し、家族のかたちはどのように変化していくのだろう。その1つの答えを出しているのが、『コンビニ人間』(文藝春秋)で芥川賞を受賞した村田沙耶香さんの『消滅世界』だ。

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2018/8/24

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消滅世界 (河出文庫 む 4-1) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

一応は近未来SFの体裁をとる。ここで問われるのは愛、性、生殖といった人間存在の根幹に関わる命題である。セックスに愛はほんとうに必要か。それはそうありたいと希求する人間の幻想にすぎないのか。生殖は愛とは無縁か。そもそも異性愛は大いなる自己欺瞞にすぎないのか。そうした問いが次々に投げかけられる。そして、小説の構造としては、さらにその外側に生殖をも国家が管理しようとするディストピア社会がひたひたと足元に迫っていることをも警告する。洗脳による「正しい世界」の実現である。「洗脳されてない脳なんてこの世の中に⇒

2020/09/20

starbro

村田 沙耶香、2作目です。未読の本書が文庫化されて、図書館の新刊コーナーに佇んでいたので、読みました。究極のセックスレス小説、衝撃的でした。性欲が消滅した世界では、食欲、睡眠欲等、様々な欲望が消滅して行くのでしょうか?そうなるとまさにホラーです。芥川賞受賞後、新作が出ていませんが、著者は書けなくなってしまったのでしょうか?【読メエロ部】

2018/08/16

absinthe

沙耶香様のこれまた凄い小説。ラストも衝撃。確かに現代社会はここに描かれた世界に近づこうとしつつある。読者はひとつの究極の姿を目の当たりにする。かつて神事であった子を授かるという儀式が科学の元にヴェールを暴かれ続け、人間の意識も変わり続けてきた。ディストピアでありユートピア。こういう世界が描けるのはかなりの力量。夫婦の間の清潔感の相違。虫たちと普通に共存していたかつての家屋と異なり、現代の家屋では虫はすべて害悪扱い。この歪んだ清潔は未来を良くも悪くも変えていく。

2019/08/23

ケンイチミズバ

無菌状態に慣れてしまい体のふれあいを汚いものとして敬遠する世代が主流となった時代。ひ弱で情熱のない生き方が生物としてのヒトの末期を思わせる。生物が生きる目的は遺伝子を残すこと、種の存続にある。人工授精が当たり前の世界にはセックスの喜びもそもそも男女の性別の必要すら薄れている。終始、気持ちの悪いSF世界に苛々した。現在の若者に見られる兆候をデフォルメしたものに違いない。対価のない自己犠牲を疎い自分勝手で自分にイイネしてくれる人だけに囲まれていたい若者が100%主流になった時、こんな世界が訪れるのだろうか。

2018/07/19

あきぽん

社会学者曰く、現代は「性・恋愛・結婚」の三位一体が崩れつつあるという(もっと昔は結婚とは家と家との繋がりだったので三位一体ではなかったのだが)。村田沙耶香はこのSF小説でこの三位一体を極限にまで解体してみせる。この小説に書かれている世界は有り得ない世界だが、小説世界を形作っている要素はどれも現実に起こっていることで、政治家の言っていることへの皮肉でもある。村田沙耶香を読むのは3冊目だけれど、本当に強烈な作家だ。

2018/12/10

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