“他人の死でしか、救えない命がある”――臓器移植法施行から20年、脳死移植という領域に踏み込んだ渾身作『移植医たち』。谷村志穂インタビュー
「本当は伝えたかったんです。自分が受けた医療を」――かつて移植を受けた読者からの手紙にはそう書いてあったという。けれど、それを口にすることを阻む空気は、いまだにこの国を覆っている。 “他人の死でしか、救えない命がある”――脳死移植という領域に踏み込んだ本作からは、医師たちの並々ならぬ気概が伝わってくる。臓器移植法施行から20年が経った今、多くの人に読んでほしい一冊だ。
谷村志穂たにむら・しほ●1962年、北海道生まれ。90年、ノンフィクション『結婚しないかもしれない症候群』が支持を集め、91年、初の小説『アクアリウムの鯨』を発表。2003年『海猫』で島清恋愛文学賞を受賞。著作に『余命』『尋ね人』『いそぶえ』『ボルケイノ・ホテル』『大沼ワルツ』など多数。『ききりんご紀行』で17年青森りんご勲章受章。
いったん扉を開けたら絶対にあきらめない。そんな人々を、私は描きたかったのだと思います
“私はあなたのような医者に出会わなかったら、おそらく、移植になんか関心は持たなかった”――物語中盤で現れるその場面はクリスマスイブ。身体中に点滴をつながれ、B型肝炎からの…