「母さん、呆けてくれてありがとう」佐野洋子が送るリアルな母と娘の愛憎物語
『シズコさん(新潮文庫)』(佐野洋子/新潮社)
母と娘の関係は、死ぬ直前までどう変化していくか分からない。それをしみじみと感じさせてくれるのが、『シズコさん(新潮文庫)』(佐野洋子/新潮社)だ。本書には、母親と娘ならではの微妙な距離感が巧みに描かれていて、胸が締め付けられる。
本書はタイトルの通り、著者の母親シズコさんを描いた作品だ。戦争を乗り越え、5人の子どもを抱えて中国から引き揚げたシズコさんは良き妻であり、立派な女性だったが、佐野氏の目には“どうしても愛せない母親”としてしか映らない。
「四歳の時に繋ごうとした手を振り払われた」。2人の確執の始まりは、そんな心のすれ違いから生まれていった。しかし、母親の老いを機に、そんな2人の関係に少しずつ変化が見られ始めていく。
体の自由が利きにくくなり、認知症の兆しが見え始めた母を佐野氏は、特別養護老人ホームに入れる。こうした配慮ははたから見れば親孝行のように映るが、佐野氏自身は“姥を姥捨て山に捨てた”と表現している。根深い確執があるからこそ、お金で母親への責任を解決していると感じていたのだ。そんな言葉…