笑い三年、泣き三月。
笑い三年、泣き三月。 / 感想・レビュー
yoshida
大東亜戦争の敗戦から一年。空襲で焼かれた東京。浅草の劇場「ミリオン座」に集まった人々の懸命な、屈せざる日々。戦災孤児、復員した演出家、東京で一旗あげようと上京した万歳芸人、おおらかな踊り子。それぞれが宿木のように劇場に集まる。それぞれの事情と傷を持ちながらも、懸命に生き、そして彼等は宿り木から巣だってゆく。戦後の食糧難や物資の欠乏。生きるのに必死な荒んだ時代であるが、万歳芸人と踊り子の心掛ける明るさが物語に暖かみを与える。困難な状況下でも気持ちの持ち方で毎日が変わる。人生はやり直せる。素晴らしい作品です。
2017/12/23
しんたろー
木内昇さん2冊目。『よこまち余話』の「ファンタジーな人情もの」とは趣が変わって、戦後の浅草辺りの匂いが強く漂って くる「リアルな人情もの」と感じた。戦争の爪痕が色濃く残る 時代に逞しく生きた庶民の泣き笑いが、日々の恵まれた暮らし が当たり前になっている私たちに何かを教えてくれているよう な気がする。40代半ばなのに純粋で心優しくも、場が読めない 善造が愛おしくて切ないキャラで「笑いとは?」という命題と 人の生き方を説教臭くなく教えてくれた。戦後の芸能史や食糧事情も知れてタイトル通りの泣き笑いを楽しめた。
2017/04/03
藤枝梅安
戦後間もない東京。戦争孤児の武雄は上野の雑踏の中で九州から上京した万歳芸人・善造と出会う。小劇場に雇われ、支配人や踊り子たちとの生活が始まる。食糧不足の混乱期を生き抜いた人々の泣き笑いと夢を描いている。井上ひさしさんを思わせる文体と展開。皆一癖ある登場人物たちが、それぞれに自分の将来を考えてはいるが、なかなかうまく行かないのを、筆者は温かな視点で描いている。
2012/04/12
タイ子
「笑いと言うものは不可思議なものよ。簡単には正体を掴ませてくれんのよ。どうぞ笑って生きてください」終盤で漫才師の善造が武雄に言うセリフ。笑いを求めて終戦直後の東京の焼け野原に降り立った善造、そこで出会う戦争孤児の武雄、復員兵の光秀、踊り子のふう子。浅草ロックでミリオン座を開く杉浦。個性的な5人のキャラが活きている。戦後の食糧事情の中、卵かけご飯を初めて食べるシーンがいい。彼らの求めるものは遥か遠くにあり、それでも手を伸ばせばもしかすると届くかもしれない。地味ではあるけど人物描写、ストーリーの上手さに敬服。
2021/07/01
文庫フリーク@灯れ松明の火
終戦間もない上野駅。地方から上京した角付け芸人(万歳芸)の岡部善造45歳。出会ったのは戦争孤児の田川武雄11歳。笑いで一流の芸人目指す善造のずれっぷりと善人ぶりが『裸の大将放浪記』山下画伯連想させる。空気は読めないがブレない善なる人。価値観がひっくり返った終戦後の世界。自由であるけれど何処へ向かえば良いのか解らぬ混沌の時代の疑似家族。別の意味で空気読めない、毒舌ろくでなしの鹿内光秀がなぜかお気に入り。むやみに卵かけごはん食べたくなります。
2011/11/06
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