息
「息」のおすすめレビュー
ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、小池水音『息』
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年7月号からの転載になります。
『息』
●あらすじ● ぜんそく持ちの主人公・環の弟の春彦は十年まえの冬に若くして自ら死を選んだ。彼の喪失は環だけではなく、両親の心にも影を落とし続けている。仕事を辞めた父と、息子との日々を語り続ける母に接しながら、何度となく弟の姿を夢に見る環。そんなある日、彼女のもとに「父が散歩から戻ってこない」という母からの連絡が届き――(表題作)。新潮新人賞受賞の「わからないままで」も同時収録。
こいけ・みずね●1991年東京生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2020年に「わからないままで」で新潮新人賞を受賞。22年発表の「息」が第36回三島由紀夫賞候補に。本作が自身初の単行本となる。
小池水音新潮社 2090円(税込) 写真=首藤幹夫
編集部寸評
いのちは呼吸でつながっている あなたが吸えば、誰かが吐く。世界はそんなふうらしい。喘息に悩まされた姉弟が互いの理解者であったことは想像に難くない。やがて自死を選んだ弟は、姉の夢の中で生きる。イラストレーターの環は、その光景をスケッ…
2023/6/6
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息 / 感想・レビュー
いつでも母さん
しあわせでした。その一言を残して10年前に自死した弟をめぐる姉・環と両親の喪失と痛み・・抱えたのは時間だけじゃない。15年振りの喘息発作から、肉体の死を疑似体験させられたような環の描写には私も息苦しくなる。重い読書ではあるものの、静かな多分再生の物語。私の右隣には生まれた時から『死』がある。でも、大丈夫。きっとその瞬間まで感じるから。風を温度を呼吸を・・だから左隣できっと生きて行けるから。そんなことを思ってしまった。【三島由紀夫賞候補作品】
2023/07/20
シナモン
喘息の描写がリアル。息づかい一つ一つの苦しさがものすごく伝わってくる。家族を失ったものの喪失感と辛さがその息づかいと重なる。静かで繊細、透きとおった文章が印象的な一冊だった。
2024/01/07
南雲吾朗
美しい情景も、苦しい情景も、非常に豊かに詩のような文章で描かれている。文字を追ってくと煌めく水面や肌を優しく包む風が観えてくる。その風の描写が美しい。「あとから風にせっつかれないかぎりは、風もまたひとところに漂う。」登場人物の心情や苦悩、苦痛も、まるでその人になりきった錯覚に陥ってしまうほど豊かに引き込まれる表現で描かれている。「ねぇ、パパ、わるいイルカっている?」子供の質問が胸に刺さる。目に見えないものをこれほど的確に表現する事は、この作家さん以外にできないのではないだろうか。良い本でした。
2023/06/19
ぼっちゃん
【ダ・ヴィンチのプラチナ本】弟が自ら死を選んで10年、家族全員に落とした影を描いた物語。両親は自らを責め、主人公も幾度となく弟の夢を見るが、主人公の喘息もあわせ息苦しさと喪失の痛みを感じる作品であった。【図書館本】
2023/06/17
いっち
「息」を示すものとして、ぜんそく、脱法ハーブ、生と死がある。主人公は30代の女性で、イラストを描いて生計を立てている。6歳下の弟は、10年前自殺した。弟の自殺は、家族に傷を与える。父は脱法ハーブをし、母は弟の自殺の日に出勤しなければと悔やむ。ありふれたテーマだが、良かった。例えば、主人公が息を止めるところ。「息が止まったその瞬間に感じたのは、経験したことのない安らかさだった。もう、重く固まった方や背の筋肉を絞るようにして、息を吸わなくてもいい」息を止めるとき、私は労働をリンクさせた。もう働かなくてもいい。
2023/06/11
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- 2022-08-05
- ISBN
- 9784813804147