ピストルズ 下 (講談社文庫)
ピストルズ 下 (講談社文庫) / 感想・レビュー
yoshida
「神町トリロジー」第二部。読了し解説で表題の意味を知る。菖蒲家の持つ秘術。その継承者となった四女みずき。父よりの秘術の継承により自我崩壊に追い込まれつつも、成長により新たな力と万能感を手に入れるみずき。その力の発露は様々な事件を起こし、収束する。他者の自我の掌握と、記憶の操作は強烈。語られる「血の日曜日」事件は他作のカタルシスには及ばないかと思う。実際は、次作への布石と知る。ファイル拡散ソフトにより世界へ公開された菖蒲家の手記。様々な機関が菖蒲家へ接触を始める。仄めかされるテロ組織との対峙。次作に期待。
2024/03/24
マリリン
次女おあばが語る菖蒲家の歴史。下巻は四女みずきの出生から始まり、菖蒲家の秘術を継承する過程を歴史的背景を絡めて淡々と物語る。父親がみずきに対して行った行為は凄まじい。それに応え冷徹なまでに堪えて会得した秘術。人格形成に及ぼした影響は多面的に表れる。一瞬ノンフィクションかと思わせる部分がまた良い。特にみずきの同級生の女の子が受けたいじめの話や、記録の消去・流失などは時代に問いかける問題も絡めている。記憶の消去…か。冷徹なみずきが父の姿に娘らしい反応をした最後のシーンが良い。著者の既読作品中一番好き。
2019/12/31
Y2K☮
史実風フィクションの最高峰。祖父を明治政府、父を昭和政府、みずきを旧日本軍に見立てるとしっくり来る。伝統からの脱却を託されたみずきの急成長ゆえの未熟な暴走もそれがもたらす悲劇も必然。イラク戦争やテロへの言及もあるから的外れではないと思う。「グランド・フィナーレ」とのリンクが同作の曖昧なラストを補完してるのもよかった。「ニッポニア・ニッポン」との繋がりもあるが、同作は「ピストルズ」という傑作アルバムの先行シングルだったのだろう。筒井康隆の云う通り、真の小説好きへのプレゼント。自由な解釈でこの魔術に溺れよう。
2015/02/12
ちぇけら
茫々たる小説の世界に潜り込んでいくのをうながす手記が続いていく、人々を動かす秘術、『グランド・フィナーレ』にでてきたロリコンの男、うまくまとまったラスト、どれもが『ピストルズ』という物語の縁を広げ、穴を深めるのに役立っている。最後に流したみずきの涙、歌声、それは美しい夢のようにぼくらを包んでくれる。
2018/07/12
yukalalami
菖蒲家を中心に神町、日本の歴史をも揺るがした過去からの話が次女の独白形式で延々と続く。人の心を意のままに操れるのは万能だが呪われた秘術であり心を疲弊させ恐ろしい方向へと導く。毒と癒し、愛の力が相まってこの物語はある種麻薬的ですらある。通俗でなくあくまでも文学として描くところがさすが阿部さんというところ。つい先日神町三部作の完結編の連載がスタートし、また新たな世界を見せてくれるだろうことが楽しみ。
2016/10/31
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