インディヴィジュアル・プロジェクション (新潮文庫)
インディヴィジュアル・プロジェクション (新潮文庫) / 感想・レビュー
yoshida
阿部和重さんの「鏖」が好きで長らく積読だった本作を読了。90年代後半の渋谷を舞台に、とあるスパイ養成機関で訓練を受けたオヌマが、かつての仲間やヤクザ、プルトニウムを巡る争いに巻き込まれる。心理戦の末、オヌマは多重人格化していき、ヤクザ同士の派手な抗争が始まる。私の読解力では再読しないと、しっかりとした理解は出来なそうです。後の「鏖」に通じる焦燥感や暴力の描写は引き込まれます。また、90年代後半の空気感もよく描かれ当時を思い出した。最後に伏線が回収しきれなかった感もあり。他作品も読んでみようと思います。
2016/06/19
けい
阿部和重特有の世界観で描くスパイ小説?後の作品のシンセミア、ピストルズ、グランドフィナーレへと続く世界観はここで完成しているのかとも感じました。スパイ養成学校とも言える高踏塾出身の語り部「オヌマ」の日記として綴られる小説、語りっぷりのカッコ良さ、クールな文章で書かれる彼の思考の迷走ぶり、マヌケぶりが対照的かつ鮮やかで面白かった。
2014/06/18
hit4papa
渋谷の映画館で働く映写技師の4ヶ月にわたる日記という体裁の作品です。次々に降りかかる暴力沙汰。その過程で、主人公は自分自身と他人の区別がつなかくなっていきます。Individual Projection=個人的な投影は、自我が拡大していく様のようです。徐々に、日記が真実であるのか、頭の中の出来事なのかが判然としなくなります。自己というアイデンティティの崩壊は、フィリップ・K・ディックの作品に見られるような心もとなさを喚起しますね。
とら
この前NHKでやってた渋谷系の歴史の番組で、この作品が紹介されていたので積読から引っ張り出してきた次第である。その当時、文学の最前線に立っていた作品であると様々なところで評されている。J文学とやらのジャンルに属すらしい。著者はそういうつもりで書いたわけではないらしいが、意図と離れたところに評価が落ち着く部分に面白さを感じる。読み終わった今でも、この作品の本当のオチなどは理解出来ていないと思う。何が本当なのか途中から分からなくなる。しかしこの充実感はなにか。情報量の多さだろうか。非常に好みだし、圧倒された。
2016/07/13
ハイちん
淡々と語られる日常のそこかしこに暴力の香りがする。訓練によって洗練されたクールな物腰の内には暴力への渇望がある。色気のある小説だなと思って読んでいたが、途中から物語は全く違う様相を見せていく。それは映写技師に悪意あるフィルムを挿入されて次第に原型を失っていく映画のような変貌だった。何が真実なのか? がわからないどころではなく、誰が俺なのか? がわからなくなる狂気の展開。小説の中で迷子になってしまった。すごい小説だと思った。
2020/05/22
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- ISBN
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