苦海浄土 全三部
苦海浄土 全三部 / 感想・レビュー
(C17H26O4)
文章に魅了されて読んでしまうことに躊躇いと罪悪感のようなものを感じながらの読書。食い入るように全三部、1000頁超を読み切った。美しく艶さえも覚える濃密な語りにのまれていると、その憑依とでもいうような語りの魔術を突如解き、事実を剥き出しにして記述してくる。フィクションとノンフィクションを自在に行き来する語りだからこそ、ルポタージュではないこの物語だからこそ、水俣病患者らの声ならぬ声が圧倒的な力を持って迫ってくる。読み手に想像させ、考えさせ、且つ読み切らせる。物凄い文章だ。物凄い本だ。
2022/08/21
燃えつきた棒
何よりもこの本のことを教えてくれた池澤さんに感謝したい。 そして、石牟礼さんが、僕らにこの遺言を残してくれたことに。 そして、切に願う。 誰かこの本を世界の人々のもとへ届けてくれんことを。 “おどまかんじんかんじん あん人達アよか衆 よか衆よか帯 よか着物” (「五木の子守唄」)/ 『ああ、人間は何故に斯く在らねばならぬのか?』(安部公房「終りし道の標べに)
2018/05/25
すだち
廃液として流された有機水銀は海と暮らす人に奇病をもたらした。昭和30年代とはいえ、いかにものどかで、こんな事がなければ一生東京になど行くこともなかったような人々。ゾッとした部分。「水俣湾の魚はとくべつうまかっじゃもんな。きっと水銀入りじゃってうまかっじゃろ。喉のちりんちりん喜ぶとの」と打ち明けるように笑う。(水銀による味の変化は科学的には証明されていない) 成人した子のおむつを替える親、解剖された子を連れ帰る母、嫌がる子に魚を食べさせた後悔。住民の純粋さもそのままに水俣の言葉を代弁した悲しみ嘆きの記録。
2022/07/25
ぐうぐう
水俣病公式確認から今年で60年、三部作を一冊の合本とした『苦海浄土 全三部』が刊行された。枚数にして1,000ページを超える本書を、一週間かけて読み終える。ときに立ち止まり、ときに後戻りしながら、まるで著者が水俣病を目の当たりにし、患者と、家族と、企業と、行政と向き合い、行きつ戻りつしながら『苦海浄土』を書き綴ったように。当然のことながら、この作品はスムーズに生み出されたわけではない。(つづく)
2016/09/26
壱萬弐仟縁
2004年初出。「人間じゃかなごたる死に方したばい」(39頁)。患者たちに共通な症状は、初めに手足の先がしびれ物が握れぬ、歩けない、歩こうとすれば、ツッコケル(傍点)、モノがいえない。舌も痺れ、味もせず、呑みこめない。目がみえなくなる。きこえない。手足がふるえ、全身痙攣。食事も排泄も自分でできなくなる(75頁)。野口遵の日窒(92頁)は日本史で出てくる知識。〝文明〟に閉ざされている都市市民には、原理的生活法や、生活者の心情がわからない。計りではかったりする栄養学、矮小な社会学しかわからない(189頁)。
2021/06/09
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- 発売日
- 2023-03-20
- ISBN
- 9784766002294