「怪我してない?」急に抱きしめられ――鼓動が速いのは緊張してるせい? それとも…/アスク・ミー・ホワイ⑫
写真週刊誌のスキャンダル報道によって芸能界から姿を消した元俳優・港颯真。冴えない毎日を送る一般人・ヤマト。アムステルダムの地で偶然出会った二人の関係は、交流を重ねるうちに変化していく――。辛口社会学者・古市憲寿氏が描く、ロマンチックBLストーリーをお送りします。
『アスク・ミー・ホワイ』(古市憲寿/マガジンハウス)
彼にとっては初めて来る街のはずなのに、なぜか目的地を知っているかのように迷わず歩いて行く。二ブロックほど進んだところに、運河に面したベンチを見つけたので二人で腰掛ける。トートバッグの中からサンドウィッチを出して港くんに渡す。気温はまだ10度に届いていないだろうが、コートを着たままなのでそれほど寒くない。 「君、できる子だね。さっきガソリンスタンドで買ったパンよりよっぽどおいしいや」 「そんなこと言ってくれるの、港くんだけですよ。付き合ってた彼女からは、いつも気が利かないとか鈍臭いって、怒られてばっかりだったから。私がいつも決めてばっかりじゃない、って」 「へえ、サクラちゃんだっけ。そうやって彼氏に文句を言いたい子だったんじゃないの。愛情…