「はじまりの季節」に前向きな力を与えてくれる1冊。芥川賞作家が贈る、18のユニークな道標
『ぼくの死体をよろしくたのむ』(川上弘美/小学館) 2017年3月5日初版第一刷発行。そう巻末に記載されている『ぼくの死体をよろしくたのむ』(川上弘美/小学館)は、雑誌上で川上弘美が執筆した計18のストーリーを収録した短編小説集です。それぞれが書かれた季節はバラバラなはずなのですが、さながら春という「はじまりの季節」に宛てることをストーリー同士が共有しているような、不思議な連帯感がある一冊です。
物語のいくつかをご紹介しましょう。ガラケーに固執したり、アラビア語を学んでみたり、メインストリームからはずれることを目的とした「逆行サークル」に所属する大学生の数年間を描いた『いいラクダを得る』。日曜日にそうめんを食べるなど、人それぞれが持つ習慣を人生の流れの中で美しく描いた『土曜日には映画を見に』。80代の祖母との友達のような関係を軸に、ある女性の人間関係を30代から数十年スパンで描いた『廊下』。人間を精神年齢に応じた外見にするための技術が発達した社会で、日常を精神年齢に伴った外見で過ごすことができる宿舎に暮らす実年齢53歳・精神年齢18歳を描いた『ス…