雪の階(下) (中公文庫 お 64-3)
ジャンル
雪の階(下) (中公文庫 お 64-3) / 感想・レビュー
Kei
美しく流麗な設えの文章。華族、陸軍将校、雪ときて、二-二六事件。三島の憂国を思いおこす。しかし、物語は、清張のごとき列車ダイヤの謎を解きあかしつつ、彼の未完の天皇転覆説というもっと大きな謎を提示する。古事記の最初の神という血筋を軸足に、宮中、軍部、財閥、ナチスと絡み合い、あの時代の不穏を現す。フェムファタールの主人公とは対照的に、彼女の補佐役でもある健全な男女が、焦土となる日本を超える未来を暗示するのが救いである。人は時代という、儚い雪のごとき階に立っていて、そのひとずさりで世界は変わるかもしれないのだ。
2021/03/16
rico
下巻は近づく幻の「昭和維新」の日に向けて加速。心中事件の背後には、薄闇の中にうごめく陰謀、権力をめぐる暗闘、そして狂気と妄執。「聖なる血」という概念は物語の中の虚構ではあるが、この国を後戻りのできない道に駆り立てた「万世一系」と相似形。千代子と蔵原の行動力と、囲碁や数学を得意とする惟佐子の冷静な思考が、真相に迫っていく鍵となっているのは象徴的。美しくはかない雪の階。それは進むべき道ではないと大声で言える人間がどれだけいるか。時代はこのように動いていくのだろう。昭和史の秘話を読んだような感覚。圧倒的でした。
2023/03/03
みつ
下巻まで一気読み。複数人が死んで行く物語であるが、その謎解きは本筋にはなく、ナチス・ドイツの、いわばゲルマン民族純血主義と日本の「万世一系」の天皇制が対比されながら、宗教者を中心とした恐るべき構想が次第に明らかになってゆく。昭和11年の運命の大雪の日を迎える場面では、実際に起こった事件とどのように結びつくのかが興味の焦点だが、やや拍子抜けの感も。全体に忌まわしさが増す中、主人公の旧婚約者の喜劇的言動が好対照。前編から魅力的だった千代子たちの幸福感に満ちたやりとりでの結びは、氏の『グランド・ミステリー』的。
2023/01/15
ゆきらぱ
物語の世界観を楽しめて満足です。惟佐子が自身は突飛な行動を取りながらもあまりに何にも動じないのが不思議ではありましたが。この不思議さをとにかく他人を圧倒させる美貌の持ち主という事で押し切られてしまったような気もする。二・二六事件と彼女がどう関係するのかが見どころ。
2021/02/18
白いワンコ
天体は徐々に『鳥類学者のファンタジア』から離れ、奥泉テイストを感じさせるアイテムも薄められていく。奔放な筆致と世界観は終息に向け雪のように静かとなり、伏線の回収こそ明朗でないものの、着地点は思いのほか穏やかだ。『鳥類学者~』や『ビビビ・ビ・バップ』と比べ、本作はより広く評価されるべき、されたい作品なのだろうかと感じた。それにしても解説の加藤陽子東京大学教授は何故、天皇論ばかりに頁を割いたのだろうか。あって然るべきワードを欠き、一心にその方向へ突き進む様は、些か滑稽であった
2021/03/21
感想・レビューをもっと見る
「奥泉光」の関連作品
ベスト・エッセイ2023
- 作家
- 角田光代
- 林真理子
- 藤沢周
- 堀江敏幸
- 町田康
- 三浦しをん
- 赤木明登
- 阿川佐和子
- 秋田麻早子
- 浅田次郎
- 荒俣宏
- 石田夏穂
- 磯野真穂
- 稲垣 栄洋
- 今井真実
- 上田岳弘
- 内澤旬子
- 内田春菊
- 大辻隆弘
- 小川哲
- 奥泉光
- 鎌田 裕樹
- 川添 愛
- 神林長平
- 岸本佐知子
- きたやま おさむ
- 桐野夏生
- 鯨庭
- 久栖博季
- 黒井千次
- 小池昌代
- 小池真理子
- 郷原 宏
- 佐伯一麦
- 酒井順子
- 佐藤利明
- 佐藤 洋二郎
- 沢木耕太郎
- 沢野ひとし
- 茂山 千之丞
- 篠弘
- 柴田一成
- 杉山昌隆
- 鈴木伸一
- 須藤一成
- 青来 有一
- 関田育子
- 大道珠貴
- 高田郁
- 武田砂鉄
- 田中慎弥
- 中山祐次郎
- 七尾旅人
- 乗代 雄介
- 服部文祥
- 平岡直子
- 平松洋子
- 藤原 智美
- 藤原麻里菜
- 古川真人
- ブレイディみかこ
- 細川護熙
- 細馬宏道
- 穂村弘
- 本田秀夫
- 松尾スズキ
- 三崎亜記
- 宮田珠己
- 村田あやこ
- 村田喜代子
- 森田真生
- 山内マリコ
- 柚木麻子
- 夢枕獏
- 綿矢りさ
- aka
- 出版社
- 光村図書出版
- 発売日
- 2023-06-26
- ISBN
- 9784813804383