吉野弘詩集 (岩波文庫 緑 220-1)
吉野弘詩集 (岩波文庫 緑 220-1) / 感想・レビュー
ちゃちゃ
私たちの人生は決して自分だけでは完結しない。花が偶然訪れた虫や風に受粉を手伝ってもらうように、不完全な私たちが成熟してゆくためには、誰かに手を貸してもらわなければならない。自分の中の欠如を満たすために、時には人に支えられ、時には人を支える。そのために、私たちは自分が未熟であるという認識と謙虚な姿勢が必要なのではないか。退職したときにふと大好きな吉野弘「生命は」の詩の一節が浮かんだ。巡り会う生命の不思議。「私もあるとき/誰かのための虻(あぶ)だったろう/あなたもあるとき/私のための風だったかもしれない」
2019/04/30
佐島楓
確か北村薫さんのアンソロジーで初めて出会った詩人。「夕焼け」のどこにでもありそうな、だけど希少なドラマ性など、言葉によって日常が裏返されてしまう体験ができる。理性的な詩だと思う。
2019/06/11
いっち
吉野弘さんの詩はわかりやすい。わかったような気になれる。「I was born」での少年の言葉、「人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだね」に、心から同調する。一方、「仕事」では、元同僚が退職し、老け込んでしまった。しかし、元同僚は、新たな仕事を見つけると若返った。若返った元同僚の姿を見た主人公は、「何かを失ったあとの彼のような気」がする。「ほんとうの彼ではないような気」がする。「ほんとうの彼」とは、仕事を辞め、老け込んでしまった姿の元同僚だ。それを「ほんとうの彼」と表現する視点が面白かった。
2022/08/10
くまさん
うつむいた娘は列車でどこまでいくのだろう。「やさしい心の持主は/いつでもどこでも/われにもあらず受難者となる。/何故って/やさしい心の持主は/他人のつらさを自分のつらさのように/感じるから」(「夕焼け」)。どうか自分を責めないでほしいと思う。「ゆったり ゆたかに/光を浴びているほうがいい/健康で 風に吹かれながら/生きていることのなつかしさに/ふと 胸が熱くなる/そんな日があってもいい」(「祝婚歌」)。自然のなかの一部としての自分は、花と虻と風とあらゆる生命と同じく、ここに存在していていいのではないか。
2020/05/05
あきあかね
生命、いのちーそれが吉野弘の詩に通底するテーマのように思えた。花や樹木、種子、虫等の生命に仮託して、人間という生命をあぶり出す。 「私もあるとき 誰かのための虻だったろう あなたもあるとき 私のための風だったかもしれない」 風や虫の訪れが花を咲かせるように、「自分自身だけでは完結できない」生命たちが、知らぬ間に互いの「欠如」を満たすものとして世界を捉える『生命は』。 「人でも花でも 誰かに関心を持たれていると知ったとき どれだけ生き生きするものかということも」 地上のあらゆるものが柔らかに⇒
2020/06/03
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- 出版社
- 光村図書出版
- 発売日
- 2023-06-26
- ISBN
- 9784813804383