犬と鴉 (講談社文庫)
犬と鴉 (講談社文庫) / 感想・レビュー
優希
父子の関係が濃密に詰まっていると思いました。とにかく濃いです。父の存在ははっきりと出てこなくても言葉でしっかり伝わりますね。戦争から戻り悪逆という形で戦う父の血の匂いが漂ってくるようでした。どうしてこの著者は血にまつわる話を書かせるとこんなにうまいのだろうと思わされます。生々しくはないけれどたぎる血が凄くてクラクラきそうでした。文章からではなく、肌や感覚で感じる血が好きです。息の詰まる絆と血の匂いにただあてられるばかりです。
2014/07/23
東京湾
奇妙な世界観であり難解な小説である。表題作ほか二篇を収録する短篇・中篇集。全体的に引き込まれる物語で面白くもあったが、振り返ると何の話だったっけなという気分に陥る。まず「犬と鴉」は戦争や鯨のヘリコプターや黒い犬や図書館など、何らかの隠喩ともとれる要素がざっくばらんに散りばめられ、また「悲しみによって空腹を満たす」という表現があちこちで用いられる。ひとえに言えば寓話だろうか。死んだ祖母が語り掛ける数々の言葉は不思議な感じで心に響いた。続いて「血脈」。拮抗する父と子との思いが面白い。「共喰い」も読んでみたい。
2016/10/23
片瀬
久々に読書しました、まずは田中慎弥。表題作他2篇収録。相変わらず父親の存在は希薄で特別。作者とのつながりをほのめかす表現。『聖書の煙草』が面白かったです。主人公は無職で、母と二人暮らし。警察に強盗と疑われたり、それになりすまそうと逡巡したり。罪悪感に勃ったり(?)。いろいろと信念深い登場人物が出てきて楽しいです。しかし、この人の作品、シーンや比喩表現自体は印象深くて好きなのですが、そこから意味を汲み取るのが難しいです。200ページ未満の本なのに、かなり時間がかかりました。
2014/08/08
onaka
父子関係を描くことに非常にこだわりを持っている作家のエキスがギュッと詰まった、薄いけど中身の濃い三つの作品を収録。この中ではやはり表題作がいい。戦争が終わって戻って来た父は図書館に閉じこもって、戦後大量に放たれた黒い犬たちや街の人たちと戦っている。病弱の子はその父に会いに行く。悲しみの旨みで腹を満たすために、、なんていう、何とも言い難い異様なイメージに満ちていて難解なんだが、読み進める苦痛はない。むしろじっくり味わいたくなる良品。父殺しのモチーフは現代においてこんな風に更新される。
2014/05/29
ネムル
象徴や寓話的な解釈へと誘うような節回しが読んでいてしんどいのだが、キャンバスに泥炭でも叩きつけたような過剰で異形な文章がとにかく凄い。戦争を通して悲しみで胃を満たすという目的が、直接的に読者へ攻め込んでくるような迫力をもっていて、なんだか腹がくちくなった
2013/08/10
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- ISBN
- 9784813804383