宰相A
宰相A / 感想・レビュー
ヴェネツィア
芥川賞受賞の3年後に書かれた作品。作風も文体も『共喰い』とは随分違う。ただ、母への執着だけは共通するようだ。かつての「血」と「地」の濃厚なリアリズム小説から、こちらは一転してSF風の虚構空間を構築する。着想の基はカフカの『城』にあるのだろうが、こちらはなんだか安普請の建物のようだ。また、制服に対するフェティシズムが全編を覆うが、それが小説の主題を背負うまでには高まらない。プロットの展開も行き当たりばったりの感を免れない。書きあぐねて、苦し紛れに書いたという印象も拭い難いのである。
2020/08/31
優希
現代の日本に対する鋭い風刺を感じました。凄く混沌としたパラレルワールドです。戦争こそ平和と平和的民主主義的戦争を行うもう1つの日本。戦争に負けたことで旧日本人となる発想は斬新なものでした。完全なるファンタジーと言ってもいいのでしょうが、これは近い将来現実に起こりうる可能性の縮図とも感じました。安保法案が通った今、読むべきタイムリーな作品だったと思います。
2015/10/06
ナマアタタカイカタタタキキ
少し安部公房っぽいかもしれない。帰省道中の電車内で居眠りした小説家Tが目を覚ますと、そこは太平洋戦争にて敗れた米国の占領下に置かれ続けていた日本、即ち現代ではなくパラレルワールドだった。にも関わらず、現実の日本との結び付きを感じずにはいられない内容、というより現代日本の風刺であって、そこで宰相Aと言われれば、それは当然あの人のことだ。その皮肉たっぷりな描写や、車内での性行為中の滑稽な会話には思わず笑ってしまう。が、著者がここで書きたかったのは、国家の批判よりも、作家としての彼の原風景ではないかとも感じた。
2021/01/09
そうたそ
★★☆☆☆ 田中さんなりのディストピア小説、ということだろうけど、決して出来は良くないように感じた。作家Tが迷い込んだのは国民全員が軍服のような制服を着用し、平和的民主主義を崇拝し、与党への支持も絶大という世界だった。その世界でトップに立つ宰相Aは描写を見れば想像がつくが、安倍晋三がモデル。ただ「A」はアドルフ・ヒトラーのAでもあるらしい。これだけ設定が多い世界を250ページ程度で描く訳だから、当然説明に終始した内容になってしまう。内容自体もこねくり回し過ぎた感がありまとまりを欠いている気がして残念。
2015/06/21
Akihiko @ VL
田中慎弥さん初読。ある日突然、旧日本人として異国民扱いされてしまう男性の物語。インパクトのある内容だと思うが、エンターテインメント性が感じられず、終始頭を捻り続ければならない作品だった。芥川賞作家の作品に娯楽性を求めるな、と言われればそれまでだが、もう少し分かりやすい落としどころがあってもよかったのではないかと思う。不気味な雰囲気を演出する為か、難解な文章や語彙が使われているのだが、それが返って集中力を削いでしまう要因となってしまった。
2015/07/06
感想・レビューをもっと見る
「田中慎弥」の関連作品
ベスト・エッセイ2023
- 作家
- 角田光代
- 林真理子
- 藤沢周
- 堀江敏幸
- 町田康
- 三浦しをん
- 赤木明登
- 阿川佐和子
- 秋田麻早子
- 浅田次郎
- 荒俣宏
- 石田夏穂
- 磯野真穂
- 稲垣 栄洋
- 今井真実
- 上田岳弘
- 内澤旬子
- 内田春菊
- 大辻隆弘
- 小川哲
- 奥泉光
- 鎌田 裕樹
- 川添 愛
- 神林長平
- 岸本佐知子
- きたやま おさむ
- 桐野夏生
- 鯨庭
- 久栖博季
- 黒井千次
- 小池昌代
- 小池真理子
- 郷原 宏
- 佐伯一麦
- 酒井順子
- 佐藤利明
- 佐藤 洋二郎
- 沢木耕太郎
- 沢野ひとし
- 茂山 千之丞
- 篠弘
- 柴田一成
- 杉山昌隆
- 鈴木伸一
- 須藤一成
- 青来 有一
- 関田育子
- 大道珠貴
- 高田郁
- 武田砂鉄
- 田中慎弥
- 中山祐次郎
- 七尾旅人
- 乗代 雄介
- 服部文祥
- 平岡直子
- 平松洋子
- 藤原 智美
- 藤原麻里菜
- 古川真人
- ブレイディみかこ
- 細川護熙
- 細馬宏道
- 穂村弘
- 本田秀夫
- 松尾スズキ
- 三崎亜記
- 宮田珠己
- 村田あやこ
- 村田喜代子
- 森田真生
- 山内マリコ
- 柚木麻子
- 夢枕獏
- 綿矢りさ
- aka
- 出版社
- 光村図書出版
- 発売日
- 2023-06-26
- ISBN
- 9784813804383