魔都の輝きに魅せられ、男たちは命を焦がす――阿片の煙越しに見る日中近代史『上海灯蛾』上田早夕里インタビュー
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年5月号からの転載になります。
かつて中国・上海には、「租界」と呼ばれる外国人居留地があった。西洋建築物が並び「東洋のパリ」と称される上海租界は、1931年の満州事変以降、日本人居留民が急増。欧米やアジアの民族が入り乱れて暮らすこの地は、昼は商業都市として華やかな顔を見せ、夜になると退廃と悪徳の匂いが漂う二面性のある街として発展を遂げていった。 上田早夕里さんは、そんな上海租界を題材にした「戦時上海・三部作」に取り組んできた。『上海灯蛾』は、その掉尾を飾る一作だ。
取材・文=野本由起 写真=迫田真実
「三部作の前に書いたSF短編『上海フランス租界祁斉路三二〇号』から数えると、ちょうど10年間、1930~40年代の上海租界について書き続けてきました。背景にあったのは、今、自分が書かねばという強い気持ちです。現代を生きる私たちが、戦前・戦中の人々を想像する時、ある程度固定されたイメージがありますよね。現代人とはまったく考え方が違う昔の人たちという認識が一般的だと思います。ですが、上海租界について調べてみると、…