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朱夏 (新潮文庫)

朱夏 (新潮文庫)

朱夏 (新潮文庫)

作家
宮尾登美子
出版社
新潮社
発売日
1998-11-30
ISBN
9784101293097
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朱夏 (新潮文庫) / 感想・レビュー

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yoshida

宮尾登美子さんの実経験による作品。渡満から引揚げ迄の約一年半を描く。18歳の綾子は生後間もない娘と共に、夫の要が暮らす満州へ渡る。時期は昭和20年4月。夫は開拓団の子供達の学校の教員。不便な満州の暮らしのなか、日本の敗戦を迎える。引き揚げ迄の一家の苦難が始まる。ソ連国境近くの開拓団と異なり、新京近くが任地だったことが比較的幸いしたと言える。家財道具は満人の暴動で喪失したが、夫は抑留されず一家で引揚げ出来た。勿論、配給される食料も乏しく、衣類もなく塗炭の苦しみを受ける。極限状態で生きる人々の姿が生々しい。

2020/07/18

優希

限りなくドキュメントというべきでした。敗戦間際に満州に渡り、死を覚悟して過ごす530日が過酷で体に痛みが突き刺さります。若干18歳の綾子が満州で敗戦を迎えるとは思ってもいなかったでしょう。人間観や価値観が崩れ、運命は暗転したかのように転落へと向かうのが壮絶でした。難民となり、不潔と飢餓に耐えながら過ごす劣悪な時間は、死をも恐れなくなるという恐ろしさがあります。小説なので、薄めて書いたのかもしれませんが、それでも強かに生きなければならない1人の女性の強さというものを感じました。

2016/10/06

NAO

親元を離れたくて代替教師となり結婚。夫の家に馴染めず、開拓団で教師となることにした夫とともに乳飲み子を連れて渡満。その数ヶ月に日本は無条件降伏。主人公たちの逃走が始まる。逃走劇は、生々しく、過酷なものだが、そういった過酷さよりも、主人公のあまりの自己本意さ、身勝手さに、読みながら腹がたってならなかった。過酷な満州暮らしで昨日までの人生観・価値観が変わったといいながらも、最後までお嬢様な態度が改められることはなかった。育ちというのは、それほどまでに変えられないものなのか。

2021/04/26

みっぴー

渡満した若妻の話です。読みやすくはないし面白くもないけど、体験談としては読みごたえがある作品です。開拓民として満州へ渡り、不便な生活にやっと慣れてきたと思った矢先の敗戦。満人やソ連兵の虐殺に怯えながら、日本人同士身を寄せあって過ごす不安な日々。それでもいつか祖国に帰る日を夢見て、飢えや労働に耐える毎日。同じ日本人なのに、開拓民と役人の間にある理不尽な壁の存在に、読んでいて本当に気が滅入ってきました。百人いれば百通りの生き残る手段があり、卑怯だなどと言っていられない。人間の底力を見せつけられた作品でした。

2018/05/17

ソーダポップ

この著書は、「櫂」「春燈」に続く自伝的小説の三部作目。戦時中、満州開拓の為夫と共に乳飲み子を抱え渡満する。満州の地で骨を埋めるはずだったが、日本敗戦を迎える事になり、それまでの人間観、価値観は崩れ去り、運命は暗転する。人間の性がむき出しになり、極まった状況が描かれていて、平常の善悪や美醜を超えたあまりに熾烈で辛すぎる体験を描き出している。豊潤な文学として完成させた著者渾身の小説でした。

2022/08/27

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