あなたも私も「或る一人の女」。共感度100%
文字が氾濫する現代、こんなにも文字に囲まれて過ごしているのに、「ほっ」としたり、嬉しくなったり、きれいだなぁと感動したりする言葉の群れに会うことはなかなかなく、小説となればもう「消費財」のように読み捨ててゆくものも多くなってしまったのではないでしょうか。
宇野千代氏、「おはん」や「色ざんげ」の言わずと知れた明治生まれの大作家ですが、固くなく、すんなりとでもずっしりとしたものが読みたい。技巧がかっていないダイレクトな情景を浮かび上がらせてくれる小説が読みたい、とこの作品を購入、800円。
他のジャンルや作家から比べると少々お高めかもしれませんが、うーん。電子書籍でもこれだけ払っても何十倍ものおつりがくるほどの、読み応えです。言葉が大きな川の流れのように、最初から読者を巻き込み、すっぽりと物語を一緒に「生き」させてくれる迫力。あぁ。小説や、かくあるべし。物語は、氏の自伝的性格が強く、だからこそこの力強さ、なのか。
主人公一枝は、生まれてまもなく母を亡くし、心優しい継母に育てられます。父親は造り酒屋の次男坊で、放蕩家。働いていたのかいないのか、実家から金が送…