寒椿 (新潮文庫)
寒椿 (新潮文庫) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
初めて宮尾登美子さんの小説を読んだが、非常に好みだった。男性に春をひさぐことを職業にした四人の女性の物語。詩情あふれる文章で、芸妓たちの波乱の人生を浮き彫りにする。貧しさゆえに身を売って、親に尽くそうとする女性の生き方に何とも言えない哀しみを覚えた。三章の貞子のように、ろくでもない父親でも子供が親に感じる愛情は尊いものだ。辛いことばかりではなく喜びもあり、女同士の友情に支えられて、彼女たちが苦界を生き抜く姿は美しい。題の「寒椿」は芸妓たちのことだろう。寒気の中で凛と花開く椿と芸妓たちの人生が重なる。
2018/08/15
優希
濃いです。花柳界を生き抜いた4人の芸妓の物語。男と金が相手の稼業を意地と才覚で生き抜く姿は、裏で憎しみや悔しさの感情が渦巻きながらも、艶やかで華やかさすら感じさせました。運命の波はそれぞれに降りかかり、苛烈な人生へと明暗を分けるのは、困難という簡単な言葉では片付けられないあり方だと思います。苦しいながらも強い生の執念を見たようでした。重い人生の中にありながらも流麗で果敢に生き抜く力が凄いです。
2016/11/01
財布にジャック
前々から読んでみたいとは思っていましたが、実は宮尾登美子さんの小説は、これが初読みです。情景が頭にすっと思い描ける程、描写が綺麗で巧いので驚きました。そして、静かで淡々とした語りなのに、女ならでは目線で、女性達を丁寧に描いているので、それぞれの芸妓の人生が、こんなに短編なのにも関わらずとても重みのあるものとして伝わってきます。短編なのに長編以上の読み応えを感じました。宮尾さんの長編も是非チャレンジしてみたくなりました。
2013/02/12
ラマジドンジュ
再読。 幼い頃一つ屋根の下に住まい、まるで姉妹のように育った5人が3〜40年振りに会う。 1人はその家の実の娘。あとの4人はお金と引き換えに親に売られた。 実の娘はのちに作家となり50を過ぎていた。 それぞれの4人の娘達も様々な数奇な運命を辿り50を過ぎていた。 澄子、民江、貞子に妙子。 実の娘は著者の宮尾登美子氏。 この著者の目を通し感じ取ったものを文章へと変換する時の熱量は、読者である私にとっては『妙技』となる。 そしてまた再読することとなるのだ。
2020/02/15
エドワード
宮尾さんの遊郭ものと言えば、「鬼龍院花子の生涯」「陽暉楼」の、豪快でたくましい印象があるが、本作は、貧しさ故に売られた少女たちの懸命に生きる様が静かに描かれる。しっかりものの澄子。斜視で頭の弱い民江。一番の器量良しだが早く死んだ貞子。地味な妙子。親方の娘の悦子。昭和の初めに芸妓子方屋松崎で暮らした五人の少女たち。貧しさの描写がすさまじい。満州へ行かされ、終戦により身一つで逃げ帰る道行きも壮絶だ。激動の昭和を生き抜き、大けがをした澄子の見舞いで再会する四人の今の幸福が救いだ。悦子に宮尾さんの姿を垣間見る。
2016/05/02
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- 出版社
- 左右社
- 発売日
- 2017-10-07
- ISBN
- 9784865281774