照柿(下) (講談社文庫)
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照柿(下) (講談社文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
なんとも重く、韜晦に満ちた小説。彼らの人生が、かくまで時間の凝縮されたものであるならば、自分のこれまでの生が薄められたそれであるかのような気になるほどである。しかも、彼ら2人にはそれぞれに別の過去があり、それが小説に一層の複雑さを与えている。さらに、その一方ではヴェルギリウスに導かれるダンテといった高踏的な動線があり、そこに遊郭の飛田が同居するといった奇妙さにもかかわらず、矛盾を生じさせることはなく、人間として生きることの悲哀を紡ぎだしてゆくのである。まさに高村薫にしか描き得ない世界というべきだろう。
2018/05/07
s-kozy
刑事として着実に歩を進めてきたはずだった。製造業の工員として事故を起こさず、役割を確実に果たしてきたはずだった。しかし、キャリアでもなく、ノンキャリでもない自分の警官人生はこれでいいのか?離婚して守るべき家族もいない。工員の自分には優秀な妻と賢い息子がいる。彼らに給料を持ち帰る自分になりたかったのか?猛暑の中の再会で気づかされる。「俺は父親のようにはなりたくなかった」。大阪の夕日の臙脂色が俺をあの瞬間に導く、そう照柿が。確かな物など実はないと気づかされる非常に力のある小説。素晴らしかった。
2015/10/11
タックン
下巻も長かった。これは刑事小説・ミステリーっていうより合田と野田と美保子の2人の男と1人の女の嫉妬と愛憎そして歪んだ人生を3人3様の立場から描いた人間模様の小説って感じがした。濃密な心理描写がこれでもかって描かれてる。3人の悲しい結末は予想できたかな。濃密の割には最後はあっさりしてたし描き方が高尚すぎて難しかったな。それに2つの事件の結末も曖昧だった・・。工場の長い描写も何であったかが疑問?青春期に事件起こしてた野田が何で有名メーカーに就職できるんだ?(照柿)の意味はわかったが題名としてはぴんとこないな
2016/10/24
kei302
達夫に対する嫉妬から暴走する合田。職権を乱用して達夫を陥れようとする合田。こんな合田は見たくない。 合田と達夫の状況と内なる声の描写が執拗に繰り返され、濃厚で粘質なのに乾いた熱風を浴び続けるような読書体験。 仕事で追い詰められ、家族から見放された達夫が一線を越えた場面が印象的。 燃えるような赤が母親、自分の描く青い絵にしか愛着を持たなかった父親。色の対比や随所に現れる色の描写にもひかれた。
2021/05/05
修一朗
後半も暗く,重く,暑い文章が続く。体調が悪い時に読む本ではない。今入院中だけど。達夫の職長の責任感の表現として,ベアリング工場熱処理工程が執拗に描かれる。ここまで書かないと気が済まないのだろう。達夫がついに踏み外して,暗い森に行ってしまった。対照的な常軌を逸した殺人。最後のヤマ場は辻村による合田の尋問。合田の内面が情け容赦なく赤裸々にされてしまった。読むのにエネルギーを消耗した。レディジョーカー[文庫版]を次に読むつもりだったけど少し休もう。この本で作者が脱ミステリー宣言したことを後で知った。
2014/05/02
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- 出版社
- 光村図書出版
- 発売日
- 2022-08-05
- ISBN
- 9784813804147